モラトリアム・オルタネイト/由比良 倖
 
いってことは、君が存在しないのと同じじゃないか」
 僕が言ってるのはそう言うことじゃない、と達阿木くんは含みのある声で言って、それと言うのも彼がさっきから、ひっきりなしにチョコレート味のするマシマロをもぐもぐやっているからで、彼のらくだ色のオーバーコートの横に付いた大きなポケットの中にはいくらでもマシマロが入っていて、いや、本当はいくらでも、というのでは無くて、あと三個ぐらいしか入っていなくて、それだから一時間ももぐもぐしていれば当然ポケットの中は空っぽになって「あ、やべ、マシマロ買いに行かな」ってなるはずなのだけれど、もう彼は軽く七十分くらいはマシマロをポケットから取り出しては食べ、をしている
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