モラトリアム・オルタネイト/由比良 倖
特に理由もなく、謂わば彼女と出会ったときから続く挨拶のように、僕はみやちゃんに訊いていることがある。そう言うとき、彼女はもう最初から答えが決まっているみたいに(しかもそれが毎回違う答えなのだ)、例えば、この前のときはこう答えた。
「私たちはね、月に行ってお花屋を開くの」
みやちゃんはゲームの画面に魅入っていた。そして、頭ではゲームのことを考えながら、同時にまるで文章がディスプレイに書かれているように、明瞭だけど平坦な声で、
「私たちは、初めて、地に足の着いてない堅気の商売人になるの」
画面の中では彼女の乗った飛行機が、大きな敵船の吐き出してくる、赤や青の入り交じった色の弾を、軽快
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