一度食べかけて、また吐く/由比良 倖
れ、咳き込むと、不穏な、ぬるりとするものが口から溢れ出し、震える手を伸ばし頭の傍の電気スタンドを点けると袖口が、赤いもので染まっていた。僕は努めて冷静になろうとし、電気を消すと、毛布に潜り込んだ。そして「そうだ、これはただの内臓破裂だ」と思いこもうとして、駄目だ、もっと軽いものじゃないと、そうだ、舌を噛んでしまったんだ、舌は、舌は。駄目だ、口の中の感覚がまるでない。咳が出る。何だ、この痛みは、どこから来るんだ。とりあえず、身体を、状態を見ないと、と決意し、がばりと起き上がると、急に部屋が明るくなって、たろやんが電気のスイッチに手を伸ばしたままで立っていた。僕のセーターを着て、眠そうな顔をしている。
[次のページ]
戻る 編 削 Point(1)