吉野(その二)/tonpekep
 
くさんの観光客がいて、吉野の春を切り取っていくかのようにカメラのシャッターを押している。
蔵王堂の屋根瓦がほどよい日射しに濡らされて、堂の周辺を光のレイスがふわりと掛けられたように微かに照らされている。
蔵王堂の正面にある四本桜はもうすでに散っていて、そこだけ時間を再生できたらと、FOMAの画面を覗きながら思った。

蔵王堂は金峯山の高台にそびえ立つ、東大寺大仏殿に次ぐ木造の大建築で、本堂は1592(天正20)年に再建された。南朝時代のものではないが、佇んでいるとこんな山奥に落ちてきた後醍醐天皇の思いのようなものが皮膚にチクチクと感じられて、足利尊氏は大嫌いだったろうなと思ってしまった。
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