吉野(その一)/tonpekep
 
野の桜を見に行ったことがなく、紀貫之ではないが、人づてにすごいすごいと聞いてはいたが、今年になって初めて出掛けることにした。

春の大和路を行く。
鉄道が生駒山系を越えると、そこは歴史の宝庫となる。斑鳩、唐古、耳成、畝傍、天香具山、飛鳥といった煌めくような名称が無造作に落ちているといった感じである。

琥珀という宝石があるが、その中に閉じこめられた太古の昆虫の化石のような時間がこの盆地の中に閉じこめられていて、日本という国の歴史は、たぶんこの広いとは言い難いちっぽけな盆地から放射され、そして列島の隅々に文化というものの匂いを放ち続けた。

吉野はその奥座敷といったところか。古来よりこ
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