褐色の濃いあたりに/深水遊脚
 
ても私に流れ込んでくるのに、少しも不愉快ではない。お店の雰囲気も、珈琲の香りも、彼女の存在も、魂の自由な往来を支えてくれるものだった。頼んでいたケニアを口に含み、褐色で再構築された心地よさのなかで少しずつ文字を辿った。

 このお店にしては珍しく、ヒットソングのジャズピアノによるカバーで、Saving All My Love For You が流れてきた。2つ隣に座っている倉橋さんの息づかいが少し乱れる気配がしたが気のせいかもしれない。ただの偶然とも思えないが、またマスターの悪戯か。そうであってもなくても構わない、と私は文字が語るクラゲの性愛の世界観に戻っていった。それでも、余白がまた騒ぎ出し
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