褐色の濃いあたりに/深水遊脚
るのだけれど、不思議なことにこのツリーにはそれほど苛立たないのだった。飾りつけが細部まで行き届き、多すぎもせず少なすぎもせず、お店とも調和がとれていた。お店全体の雰囲気はあくまで珈琲の褐色が中心。上質な珈琲の香りがほのかに漂うけれど空気はとても清潔。聞き取ろうとしてわかるくらいの音量で流れるジャズ。すべてに気が配られていてこころゆくまで落ち着くことのできる空間だった。なかなか読み進まない本もここでなら静かに深く入り込み、いつのまに読み終えるということが多かった。でも今日は読書はあきらめることになるかもしれない。先客がいて軽く会釈をした。倉橋いつきさん。ここでよくみかける顔見知りの常連だった。
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