地と水/あおい満月
美しい。鏡を見ながらあなたは、あらゆるものが削がれ、骨と皮になった湾曲状の身体を愛しそうに撫でる。部屋中の蛍光灯は、壊れて割れてしまって明かりがつかない。月の光だけがたよりだ。何かがあなたの指を刺す。割れた蛍光灯の破片だ。僅かな傷跡から、まだなにものにもおかされていない鮮やかな血が滴る。水に攻撃されたあとの、僅かに残った生の領域に、あなたは安堵し、血のついた指を舐める。昔、自分は海だった。そんなことを思いだし、僅かに潮の名残が残るその味に、
あなたは小さく深く、慟哭する。
*
遠くで、誰かの声を聴いた。歓喜のような叫び声だ。けれど、どこか冷たい。いや、歓喜ではなく、悲しみの叫び声だ。
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