ドトールにて/高林 光
 
内容はほとんど僕の中に入ってこないし、コーヒーも味気ない。まあ、コーヒーが味気ないのはドトールだからということにしておこう。(まったく失礼な話だが)
 椅子を三つ隔てた反対側の端の席で、初老の男性が風景写真の本を開いてスケッチブックを広げ、絵を描いている。
 色鉛筆の真ん中あたりを軽く握って、細かく斜めに動かしているのが見える。
 遠巻きに覗き込んでみると、開かれた写真をモチーフにした緑の森が、確かにスケッチブックに描かれている。
 初老の男性は初老なので、頭は軽く禿げているし、眼鏡は明らかに老眼鏡なのだが、何より手が美しい。絶対的な手の指の美しさが、この初老の男性を包み込んでいるように、
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