一〇月、食事のあとで/ホロウ・シカエルボク
 
聴くようになって、あんな格好をしてコンサートに通うのだろうか、なんて考えていたこともあった、高校生くらいのころだ、でも今でも私は流行歌が大好きで、休みの日は一人でカラオケに出かけて二時間くらい好きな歌をうたってばかりいる、そんな自分をどう思うかなんていう話ではないけれど、たとえば今夜のようにイタリアンレストランでそんな人たちに囲まれたとき、私はどうしてそんな大人にならなかったのだろう、なんてぼんやりと考えるのだ、そしてどうして、私は流行歌が好きなのだろうと考える、身を焦がすような激しい恋や、夕暮れの繁華街でキスを交わすようなロマンティックな経験などひとつもなかったというのに?あったのはそれなりの―
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