一〇月、食事のあとで/ホロウ・シカエルボク
 
の―それが標準なのかどうかは判らないけれど―まあよくあるような話がいくつかあっただけだ、そうして私はそんなことに飽きてしまったのかもしれないなんて考える、もっと楽しいことはあるのかもしれない、でも、もういいのだ、私はそれをつまむ程度で、あとは自分の好きなものをあれこれと追っかけている方が楽しい、雨、やんでるね、と私の考え事を邪魔しないように黙って歩いていた友達が言う、え?と聞き返して私は傘をずらして空を見上げる、星は出ていないけれど薄いヴェールを被ったような夜空がそこには広がっている、私の目を濡らすものはなにもなかった、「ほら、もうあんただけ、傘さしてるの」友達が笑う、私は慌てて傘をたたむ、撫でるような風が吹き始める、どうする、電車に乗る?と友達が聞く、彼女は多分私の答えを判っている、「いいよ、歩いて帰ろう、そんなに遠くないんだから」彼女は笑う、私は生真面目な顔をして、頷く、柔らか過ぎるパスタのことなんかいつの間にか忘れていた。

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