ブラック&ホワイト/ホロウ・シカエルボク
 
て違いはなかった、ということは、やはりそんなものと見つめ合っていても仕方のないことなのだ、俺は視線を逸らして潰れた造船所のほうへ歩き始めた、数歩歩いたところでそんな目のことはすっかり忘れた、海の近くに建てられ、放置された巨大な廃墟はなにもかもが赤く錆びていて、押し入れで散々湿気た布団のような潮の香りがした、それは俺に古臭いアパートを想像させた、造船所の正面玄関の前に立って、硝子戸越しに長く続く廊下を眺めた、ここに来るといつもそうするのだ、硝子にもやはりさっきと同じような目が映っていた、でも俺はもうそれを見なかった、廊下の先に何があるのかは見えなかった、そこには閉じ込められた過去だけがあった、船を作
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