キンモクセイの思い出/吉岡ペペロ
 
防衛庁の巨大なアンテナのさきが霧にかくれていた

富久町の高層マンションのさきも霧にかくれている

そんなことを眺めながら路地を歩いていたら

あ、

きょうの日付をあたまのなかで確認した

思い出をいくつか引き出しからとりだした

きょうがもう九月の下旬であることで合点がいった

キンモクセイ

キンモクセイの匂いだ

オレンジいろのちいさな花をさがして振り返る

ない、でも

キンモクセイの匂い

アスファルトが湿気た匂い

霧がおりてきている

この感じ、そうだ、

上海の朝だ、

大地のしっぽと人工の喧騒、

そんなことを
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