メルシー/竜門勇気
 
去に去りました。
あなたは重たい荷物を持たされながら自分の車を探します。先に進んでいたあなたの妻が背中を丸めたまま手を上げ呼んでいます。
あなたの荷物は義理の息子に奪われました。あなたの足取りは嘘のように軽くなります。
7月の抜けるような青い空に、ミルクをこぼしたような雲が遠くあつまっています。日差しの鋭さより風の軽さがあなたを心地よくさせます。
トランクルームに荷物が積まれるより先に助手席に座り込んだあなたは、全開になった窓とぬるい風を吹くクーラーからの風を感じます。
決して新しい車ではありませんがあなたにとっては多くの時間を過ごした車です。しかし助手席に座っている時間は大変少ない経験
[次のページ]
戻る   Point(2)