夢のなかに生きる/天才詩人
 
下する。階段を一歩一歩登ったとき、一段を踏みしめるのが毎時0.8秒だとすれば、このフリーフォールは170倍ほどのスピードということになる。しかし、このマシンは、降りることはできても、昇ることはできない。この州では、折からの経済政策の失敗で、人々は多忙になり家族に背を向けはじめた。町外れの、洪水制御用のトンネルにはホームレスシェルターから放り出された家族の家財道具が、運び込まれる。僕はモールから直接、南西へ向かうハイウエイに1990年代製のトヨタ車を乗り入れる。午後の日差しは雨水をかぶった稲穂の群れを、きらきら反射する。農家が、農道が、農村が、半開きになった助手席の窓から見える景色のなかを飛び去る。
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