火の山峠 2016/たま
一八〇キロ。かめりあ丸に乗
船して三宅島の次郎さんを訪ねた。団
魂世代の次郎さんが、たったひとりで
三宅島に移住したのは五年前のこと。
「山と海しかないとこだからね」でも、
山も海も、ひとつずつしかなくて、雄
山と呼ばれるその山は二十年に一度噴
火するという。
五日目の朝、火の山峠へとつづく林道
を次郎さんと歩く。平成十二年の噴火
で、白い骨と化したシダジイの原生林
が、皐月の空に蘇る。幾多の罪人がこ
の峠を越えただろうか。右も左も、西
も東もなくて、さらに、今日という日
も、明日も見つからないとしたら、そ
の昔、この島にひとが流された理由も
わかる気がする。きっと
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