火の山峠 2016/たま
っと、わたしは流
されたのだ。戦争を知らない時代に生
きて、償うすべのない罪を重ねて、わ
たしというささやかな流罪人の、残さ
れた明日と、わずかな希望を、この手
に授かるために。
「あした帰るの?たぶん、飛行機は飛
ばないよ」明日も西の風が吹くという。
次郎さんはもうすっかり島のひと。火
の山峠の展望台を過ぎて林道を下る。
人恋しげなカーブ・ミラーの前に立っ
て、ふたりの記念写真はカーブ・ミラ
ーの瞳の中に。次郎さん、ありがとう。
三池港の桟橋に向う日、そのちいさな
車は、物静かな牛のように坂道を下る
のだった。
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