並木道/もっぷ
案の定、一輪の犠牲を彼女は見逃さなかった、瞬時に声をあげた。それはニンゲン語と呼べるようなものではなく、体全身からの悲鳴だった。喉も口も介さない魂による直の発声。
誰一人にすら意味を理解されずにそれでも少女の絶叫がやまない。その家の母親らしき若い女性が姿を現し、正体不明の騒音を近所迷惑とよくわかって故に少女を家のなかに片づけてしまった。
お母さんが用意してくれた手作りのにんじんケーキを食べながらも、あたしはなみだが止まらなかった。理不尽という言葉をまだ知らなかったけれどあのスミレの命のことをいったいほかにどう思い詰めればよいのだろう。
みんながほがらかになる春にあたしはかけがえのない
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