Avenida 68 (藝術としての詩・続)/天才詩人
 
国鉄の駅があったころのこの一画の様子をいつも地元の誰かに聞こうと心に決めていた。しかし不思議なことに僕は毎回その機会を逸した。どんな相手と会っても、肝心なときにうっかりそのことを聞き忘れてしまうのだ。そして今日、屋上からまさにそのガラス張り建築のターミナルがあった場所に目をやりながら、Lにその話をしようと思ってふり返ると、僕が口を切るよりも早く彼女は言った。「明日の朝食のパンを買いに行かなくちゃ。一緒に来る?」

そして部屋に入ると黒いジャンパーを羽織り、僕の存在を忘れたかのように、早足で階段を下りはじめる。僕はLに一歩遅れたまま後ろを歩き、S字形にくねった路地をゆく彼女の背中を追う。「今日は
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