夏の神々/ひだかたけし
のだ
かろうじて顔を上げた視界には真っ青な空が広がり照り輝く入道雲の卵達がもくもくと山脈となって連なり暗く明るく躍っていた
〇
鈍った体がほとんど夏の大気に消化されたらしい
どれぐらい経ったのかわからないが僕はやけに身軽になって立ち上がっていた
全身の汗は完全に引いていた
その瞬間自分が何か意識の塊か眼になっている感じがした
感覚ではなくて意識の眼だ
僕はその意識の眼で樹木を観上げた
灰色のつるりとした幹が伸びていた
蝉は相変わらず激しく鳴き続けている
三メートル程上の幹と幹が二股になる縁にその蝉は留まっていた
遠目には油蝉に似ていたがよく観ると油蝉より大
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