メキシコ/天才詩人
いたことに、驚いた。そうだ、「パン」が食べたい、いや、食 べることができるのだ。暗く長い廊下の、突きあたりの開け放たれた窓から、くもり空の日がこぼれるのが見える。この国では、もう何年ものあいだ、小さな家屋で扉 に板を打ちつけてきた俺の身体は、やっと人々や町の動きと相似形をなし、手に触れることのできる「かたち」を持つだろう。そのことを直感したのは、この日 の朝の、少女とのたった一言のやりとりを通してだった。たぶん人は、このような体験を「原点」と呼ぶのだと思う。それから15年目の、はじめてこの町に着 いた日と同じ時刻、かわいた高地のスモッグにおおわれた首都中心部の歩道を、俺は、鬱々とした2o代の青年だ
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