メキシコ/天才詩人
間が続くなか、ある朝、ホテルを抜け出した。涙が出たのは、そんな朝だった。この国にはじめて来たのは、15年ほど前、22歳のときだっ た。ロスアンゼルスからの深夜便で、早朝の空港に降り立ち、英語がまったく通じないことに困惑し、仕方がなく、うろ覚えのスペイン語の数字を使って、タク シーの運転手と値段交渉をした。曇り空にすっぽりおおわれた、首都圏の高層ビル群を遠くにのぞむ広いハイウェイを飛ばして、歴史的中心地区にある、安宿に向かう。古い診療所を改装した、冷たいコンクリートの廊下に、高い天井の部屋がならぶ宿。部屋まで案内してくれた 褐色の肌の少女は、スペイン語のわからない俺に、朝食があることを伝えようと思っ
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