月の村/AB(なかほど)
 
じゃないか

それでも


スクは
陰暦の六月朔前後に浜に打ち寄せられる
まだ一度も藻を食んだことのない稚魚でなければ
お腹の色が黒ずんでしまっては
いいスクガラスができない
日頃公務員をしている男でさえも
何日も前から目の細かいスク網作りをしながら
朔を待つ
銀色に輝くスクが美しいのは
まだ一度も藻を食んだことがないためだろうか
律儀にも月の朔に打ち寄せられるからなのか
とにかく光る波打ち際で
男達は嬉々とする


あじずしが浜町出店に並ぶ頃
親っ様の漬けた馴れずしがふるまわれ
キリコの灯が浜町をねり歩く頃
虫送りの火が畦道をねり歩く
やがて日が沈
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