雨がまといつく/ホロウ・シカエルボク
大きくなってからか
そんなことはまるで思い出せない
ただそんな雨の場面があったこと、それだけを
写真がねじ込まれるように思い出す
人に言わせればこの俺は
不要な記憶をたくさん持って生きているらしい
覚えておくほどのことじゃないこと
思い出す意味もないようなことをどうして思い出すのかとよく聞かれる
だけどそんなことを言ってくる連中の思い出話といえばどこそこの女とどこそこの公園でやったとかそんな話ばかりで
もちろんそいつにとっちゃ意味のあることなのかもしれないけれど
窓に近い外壁のどこかで雨だれがなにかを叩いている
ここに住みはじめてしばらくのあいだ
その音の出
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