四十三音/サダアイカ (aika)
 

私は私の恋人が昔すきだった女の人の名前ばかり
便せんに書き取らなくてはならなくて
それは雨漏りの受け皿を並べる行為のように
際限なく続き受け皿に音の雨が
打ちつける音が
恋人の声が
私の恋人の声で
音の雨は女の人の名前になって
何度も何度も聞こえるのは恋人の声で
私はますます必死に二文字の名前を
懸命に書き取って
私の便せんがどんどん濡れて冷たくなって
ならべられた二文字がならんだ便せんがならんだ
恋人のくりかえされる声がならべられた二文字に
愛してるが混じり始めて
私は二文字を便せんに書きとっては
とっくにひらがなのその二文字の形がわからなくなっては
恋人の声
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