真空海域、球体遭難/北街かな
 
さくらのはなびらも昨日の涙も肋間の痛みも
血液のめぐる色と音も
いっしょに弾けて同一性を消した
君はきみを認識することを永遠にやめてしまったのだ

航行する調査隊は真実の基準を探していた
かつて海に沈んでいった在らざるものの質量を示す球体を
羅針盤はプリズムの虹を光学的にうち鳴らす
在るべき人間の真実の位置を理解するために

這行する断裂面は陸地の姿をかきまわしていた
やたら動きたがる積極的恒常性たちを
隔離しては解き放って全て殺した
凍らせ窒息させ星をぶつけ
思いつく限りの掃討を尽くしたが
確認された生存者たちは現在のところ
またあらたな思考者をつくりだそうと企て
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