真空海域、球体遭難/北街かな
 
企てている

きみが足を滑らせた地上にはきみの知らない過去がとりついていて
きみの関知しない未来がずっと待っている
まるで泡のようだなんて、沈んでいくころに思ってはいたが
浮かびあがる頃には、何もわからなくなっていた

きみは思った
自分は居なくなるけれど
これから何が起こるのだろう
どんなひどいことが心ある脳を悲しませて
どんな理不尽なことがみんなの足を踏みにじるのだろう
しあわせなことがあるように思えない、と、沈んでいくころには思っていたが
浮かびあがる頃には、ただ、空があることしかわからなかった

遭難者は、海域に閉じ込められた泡宇宙のなかで
観測を続けていた
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