花畑(終)/吉岡ペペロ
「しばらくここで飲んでな」そう言ってふたりはカウンターに行ってしまった。
カウンターではひとりの男が明らかに阿部定を口説いていた。
もう四年も通っているだとか、もう三十年になるじゃないかとか、挙げ句は貸した金の話だとかを延々と話していた。
阿部定がさびしそうな目をしてうなだれている。ぼくは老婆のその姿に素直なものを感じた。
大人に怒られているような、それでも謝ることをこらえているような、矛盾しているかも知れないけれど、邪気のないつぶらなものを感じていた。
「こいつから聞いて心配してんだよ、定さん、あんた、死にたい、死にたい、って客にこぼしてるそうじゃねえか」
阿部定の面長な顔
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