花畑(終)/吉岡ペペロ
なっていただろう。初めて会う男を部屋にあげる阿部定という女からぼくは逃げたのだ。逃げてばっかりのぼくを和夫くんが助けてくれた。
それよりもぼくを強くとらえていたのは、和夫くんの痛みを自分のからだの一部として感じたことだった。和夫くんはこんな痛みのなかを生きていたのだ。
「バンザーイ、和夫くん、バンザーイ」
ぼくは顔をぐしゃぐしゃにさせて嗚咽していた。
水溜まりに月が映っていた。犬の遠吠えがひとつ聞こえて、それっきり町が静かになった。ぼくの嗚咽と足を擦る音だけになっていた。
阿部定はトイレから戻って来ないぼくをまだ待っているのだろうか。そんなことはどうでもよかった。
ぼくは和夫
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