花畑(終)/吉岡ペペロ
 
れた。「おかえり」と、ささやかれたような気がした。
 ぼくは阿部定についでもらったビールを飲みながら店をぼんやりと眺めた。
 清潔な店だ。凄惨な阿部定事件からは想像もつかない店だった。
 阿部定は和服がよく似合っていた。襟元をくつろがせて痩せた胸元を広くみせていた。としを考えると少しはしたないようにも思えた。
 ついでくれると指先がぼくの目の前にきた。六十代の指ではなかった。若かったのだ。こんな手で触られたら即発射だ。
 カウンターの一組が店を出ると、
「お兄さん、こっち使えよ」
 振り向くと土間の背広姿の男ふたりがこっちにおいでおいでをしていた。
 ぼくが土間にあがると、
「し
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