花畑(5)/吉岡ペペロ
 
画でも観にいこう。ぼくはさ迷うようにまた電車に乗った。
 ところがぼくは映画ではなく浅草で演芸を観た。観客が入れ替わってもぼくは席に居座りつづけた。切り絵漫談を観ているとぼくにも出来そうだと思った。ぼくならもっと速く、もっといろんなものをつくることが出来る。
 そんな高揚をおぼえたけれど、そもそも切り絵を始めたきっかけも、和夫くんからの逃げであったことを今更ながら思い出していた。
 演芸場を出るともう夜になっていた。
 ぼくは財布のなかをまさぐった。財布のなかには和夫くんのお寺の記事が四つ五つ入っていた。店の週刊誌をやぶりとったものをハサミできれいに整えて折りたたみ、ぼくはそれを御守りのよ
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