花畑(3)/吉岡ペペロ
 
とき、ぼくはホッとするよりもさきに、胸にどす黒い不安のようなものを感じた。男の嫌な臭いを思い出した。
 あの日結局、お母さんが言っていた時間よりも早く帰宅して、
「ああ、申し訳ないよ、ほんとうに申し訳ないよ」
 そう言って仏壇に封筒をお供えしてから手を合わせた。
 あの夜、あの男の講話会合は中止になった。信者が持ちよったお菓子は、和夫くんのお母さんが買いとってくれたのだという。
「奥様には、お不動様にお供えしてくださいって言ったんだけど」
 ぼくはお母さんのことを腹の底から軽蔑しながら話を聞いていた。おまえらだって鼻の穴の男と一緒じゃないか。
「でもね、あんた聞きなさいよ、和夫様がね
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