神棚のサドル/カンチェルスキス
 
、駅前の広場の楠が切断されるのを老婆は町内会のお茶会で初めて知った。父親が好きだった楠だ。肩車されて見上げた記憶もある。病気だとは言え、楠が不憫でならない。町内会で老婆は謂れを話した。ほんの気休めだけど、と神棚のサドルを楠に奉納することを提案し、全員一致で可決された。「父さん、これでいいのよね…」、さびしさと楠並びに地域住民のためになれる喜びが入り混じって、老婆の目には涙が滲んだ。
 宮司を呼んでの儀式が正式に執り行われ、枝分かれした真ん中に、神棚のサドルが奉られた。そのとき、町中に響く喝采が沸き、祝いの席が二週間続いた。縁結び、交通安全、厄除けのご利益があるとされ、中でも、魔がさす時間帯である
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