神棚のサドル/カンチェルスキス
。そこで仕事をサボってたピザ屋の配達の兄ちゃんに遭遇した。さ迷った分、もう体力は限界に近かった。きれぎれの声で事情を話すと、親切にも家まで送り届けてくれた。「最近のピザ屋は、おばばの配達もやってるんかえ」とラクダ色の腹巻きをしたじいさんのすっとぼけた声を聞くと、老婆は心底ほっとした。何だい、自転車のサドルなんか大事そうに抱えて、というじいさんに、「いいんだよ、あんた…。父さんが助けてくれたんだよ…」。そう答えるのが精一杯だった。それから、きれいに拭いたサドルを神棚に供え、渋るじいさんとともに、手を合わせるのが日課になった。魔がさす―恐怖に襲われることは、もう二度となかった。
そしてあるとき、駅
[次のページ]
戻る 編 削 Point(1)