神棚のサドル/カンチェルスキス
 
続くかもわかっている。子供の頃から親しんだ海だ。何でも知っている。なのに、水平線も薄闇に溶け、すべての輪郭が危うくなり、突如現れた虚ろの穴に吸い込まれていきそうな感覚をおぼえた。子供の頃、つないだ手を握り締めながら、父親が言った言葉を思い出していた。「魔がさすときって、あるんだよ」。意味を尋ねたが、父親は笑って答えなかった。魔がさす―聞いた瞬間、背筋がぞくっとした。まるで毛虫が背中を這っていくような寒気だった。父親が言っていたのは、こういうことだったのか…。わたしはここで、どこにも辿り着けず、砂浜に突っ伏して、海の藻屑と消えるのか…、気のせいか、脱力感にも見舞われてきた。波の音だけわずかに耳に届く
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