貼り紙世界の果て/カンチェルスキス
る。掲示板の前にじっと佇んで、顕微鏡を覗くように見つめている人は、それほど多くないはずである。たいてい素通りして、人々の日常は進んでいく。時期はずれのポスターや案内は風雨のせいで画鋲が抜け落ち、カーテンのようにはためいていたりする。選挙ポスターと同じ運命である。それさえも、日常に溶け込み、わざわざ顧る人もいない。
一方、ごくまれに、釘付けになってしまう案内と遭遇することもある。そのとき、私はぼんやり歩いていた。空も同じようにぼんやり鉛空だったのである。ふと、町の掲示板に目がいった。
「○月○日○曜日、溝堀」
と一枚書きされていたのである。ソフトボールぐらいの文字の大きさで、太字の明朝体っ
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