沈丁花3/吉岡ペペロ
て繁治はまた歩道を歩いていった。香りがして、昨夜分かった匂いのもとの緑を見つけた。そして何かの匂いに似ているとあらためて思った。
押し入れの匂いだ。この香りは、姉の匂いだ。
押し入れのなかで姉はミイラになっていた。姉や義兄との幸福だった日々を思った。末期の癌で姉は柔らかで弱々しいミイラのようだった。死んでしまってからのほうが力強く見えた。死んでからの姉はさっきの芸術作品のようだった。義兄は裕子ちゃんに打ち明けてしまったのだろうか。
姉ちゃん、ありがとう、姉ちゃん、ありがとう、朝息をしていなかった姉を義兄とふたり夕方まで見つめていた。姉の遺言を見つめているようでもあった。夜会社の車でピッ
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