沈丁花3/吉岡ペペロ
まだすこし早いが会社に出掛けることにした。
ほんとうは繁治も裕子ちゃんを追いかけたのかも知れない。しかし道中にふたりの姿はなかった。
ひと駅まえで降りて会社まで歩くことにした。
あした姉が帰ってくる。その嘘は自分にしか効用のない嘘だった。裕子ちゃんの涙の意味が繁治にはわかる。それがほんとうのことなんだと、つきつけられたみじめさに自身が切なくいとおしくなっていた。
気持ちを引きずりながら歩いていた。このあたりはよく通るのだが歩くのは初めてだった。歩道に並ぶひとつひとつの店がもの珍しかった。
繁治の足がとまった。ガラス越しに動物の足腰のミイラが天井から何体もぶら下がっているのが見
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