ファントムペイン/ただのみきや
 
あり
種から木が育ち
木がリンゴを実らせるのなら
種の中のリンゴの味わい
リンゴの中の木を見上げて
木の中の種を数えてもみよう
ひとつらなりの時間の中の
物語を読み進み また
ページを戻して読み直すように
あのころ読んだ物語が
全く新しい理解と解釈を宿し
蕾のように膨らんで往く


そうしてまたいつか
夢でしか行けないカフェの奥
面影は 腰を掛け
白い表紙の本を開いては
ふっ と顔を上げ
――ああ 同じように老けて
別人のよう なのに
懐かしさがいっぱいに溶け出してくる
もはや自分の一部分として


なにもない花壇
もの言わぬ土塊
知覚されない
[次のページ]
戻る   Point(16)