混沌のクマ/オダカズヒコ
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新宿紀伊国屋のエレベーターに乗り
高層の建築群に
毛皮をまとう
夕暮れに
ウジ虫たちの鎮魂がアスファルトを
パーッと染め上げる
新宿駅は
なんて寂しげな帆船だ
あのもの悲しさから
西新宿は
人間の孤独な意志によって
高層化し始めたのだ
ホームレスたちのねぐらを奪い
建物を高くすることで
嵐に傾く帆船を守ろうとしたのだ
東京はやがて左舷へと舵を切った
西の神戸で大震災が起こり
朝のテレビで
廃墟と化した町が写し出される
ぼくはそれをアルバイト先の職場で見ていた
オウムがサリンを撒いたとき
ぼくは山手線の目黒駅にいた
何かが起こったのだと思
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