「一押しの力?丸山薫の詩を声に出した日」/石川和広
 
始まらない。たとえ、自分の作品であっても、否、自分の「語り」だが、ここには、きっかけとなる「経験」がない。だから朗読は、いつも新しく言葉を迎え入れ、咀嚼する息吹きとなる。
 丸山の詩が、僕には今日は「他人事」とは思えない気分だ。僕はいつも自分に対して、よそよそしい。けれども、丸山の言葉に招き入れられ「こんにちは」されて…僕はいつもよりは、少し楽に、自分の言葉より、なにの言葉より、他人の言葉が読みやすいという「経験」をしたのである。
 
 「自分とは誰か?」という自問に答えはないと誰かが言う。そうなのだ。そして、答えのなさを口承を通じて、自分を反響させる場所をつくりだすものとして丸山の詩を、今
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