花びらなら土に帰す/アラガイs
 
その度マタタビを焦がすような匂いが煙りとともに鼻を差し、お経のような念仏が何かを叩いては流れてくる。きっとこのアパートに住み着いて離れない悪霊か何かの仕業だと思い込んでいるに違いない。ネットに引きこもる息子の顔を見たのは二度ほどだが、年老いた母親の方はいたって元気な様子で、夜明けをまえにすると決まって台所でごそごそと大きな音を出しては部屋を出ると昼前には戻ってくるようだ。よくドアを開けすれ違う度にわたしの鋭敏な鼻はその煙りの匂いにやられる。私は急いで部屋に戻ると身体から階段口までを消臭してやる。渇きを邪念に奪われないように警戒するのだ。

今日も足音を殺しながら別居している女房が二階に上がっ
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