きみが火事でも助けない/ユッカ
 
食器も
古本屋で買った感じのいいポスターも
こんな午後には形無しなんだ

きみが僕のことを見ているなんて、そんなこととっくに知っていた
きみが僕の名前を呼ぶときにこもる熱の意味も
ほんとうはぜんぶぜんぶぜんぶ知っていたけど
たとえば冬の煮こみ料理の途中で
火をつかっていることを忘れたまま放置して
まちがえて火災報知器を鳴らしてしまったときの
あの瞬間
ドアを開けたときの煙がきみなんだ
輪郭のない真っ白なものにつつまれて
数学の方程式とか
シャワーの湯加減とか
そういうの
もう何もかもよくわからなくなってしまうんじゃないかって
不安なんだよ

あの嘘つきが消えて
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