すべての夜は悲しみの膝元にあり/ホロウ・シカエルボク
ない
前の住人がこの部屋に残していったもので
かなり古い作曲家の残したものらしい
前の住人はここから程近い公園のブランコの支柱で
この楽譜に関する遺書を残して首を括ったと聞いた
これがここにあるのならいつか
そいつが現れて詳しく教えてくれるんじゃないかと思ったが
あいにく数年経っても顔を出しはしない
彼は死ぬことによって報われたのかもしれない
時々どうしようもない夜中に出かけて
堤防を降りて幾つも並んでいるボートに忍び込む
寝転んで穏やかな波に揺られながら夜空を見上げていると
人生とは無駄がボールのようにプールに詰まっているようなものだという気がしてくる
抜け出し
[次のページ]
戻る 編 削 Point(5)