すべての夜は悲しみの膝元にあり/ホロウ・シカエルボク
 
たのスペルを間違えてる落書きに出会う
足を濡らしてまであんなところに歩いていって
あんなことを書いたやつの人生について俺は考える
気持ちは溢れているのにそれを補うものがなにもない
きっとそんな感じなんだろうと思う
違うところを歩いたやつが
飛びぬけたやつだとは限らないものだ


歯を磨くときに決まって思い出す歌がある
もう十年もその歌を耳にしてはいないのに
歯ブラシが歯を滑り始めると不意に浮かんでくる
特別思い入れもない
取るに足らない歌なのに
ここ数年ずっとその歌を思いながら洗面の鏡を覗いている


寝床の天井には音符があり
それがどんな音で鳴るのかは知らない
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