看取り(3/3)/吉岡ペペロ
強い風を受けて息子が喜びの声をあげた。
「気持ちいい」
息子がそのままの形でぼくの両腕を引っ張って前傾を深くした。ぼくもそうしていたように。誰から教わらなくても鳥をしたらみんなそうするのだ。川べりで妻にもしたことを思い出した。
鳥になった息子が無心で風を受けている。息子のジャンパーが音を立てていた。ぼくの耳よこを通る風音とそれが重なった。
風がおとなしくなった。「今度はぼくがお父さんに鳥してあげる」息子がぼくのうしろにまわった。ぼくの手首にちいさい手がからんだ。息子を日本で育てたいと強く思った。息子への気持ちがあふれた。また強い風が吹いてきた。愛しい気持ちのまま、ぼくは息子が転ばないように
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