看取り(2/3)/吉岡ペペロ
 
使わない言語だった。
母国にはたくさんの言語がある。日本のように関西弁とかそういう言葉の違いではない。まるっきり違うのだ。まるっきり違う言葉がたくさんあるのだ。
ぼくらのほんとうの祖国は言語のなかにある。祖国と他国の国境線なんてものは地形とはまったく関係なく引かれた直線だ。強国が引いたたんなる線だ。
ぼくは杉下さんのベッドのよこでパイプ椅子に腰掛けている。
ぼくの母国語でミトリとは居場所という意味だった。ぼくの日本での居場所がここだと思うといつも茫然とした。
看取りをはじめてニ人の方の最期を看取った。内戦や飢餓がいやでこの国に居着いていたのにこんなところがぼくの居場所だ。家族を裏切った罰
[次のページ]
戻る   Point(2)