看取り(2/3)/吉岡ペペロ
 
た罰かも知れない。ぼくは最近自分を責めることが増えたような気がする。
杉下さん、死なないで、杉下さん、死なないで、ぼくはなんどもなんどもこころのなかで呟きながら彼女の顔のあたりを見つめていた。鼻からでているチューブがすこし白く光っている。川のようだ。布団は荒れたなだらかな山。それを夜が満たしている。星はベッドまわりの計器の明かり。そんな幻を真剣に遊んだ。
杉下さんからたまに音がする。
きょうは、死なないで、杉下さん、死なないで、杉下さん、死なないで、またとり憑かれたようにこころのなかで呟く。
ぼくは顔を振り口を閉じたまま溜息を吐く。唇が音を立てる。そしてまた真剣な遊びを繰り返す。
白くて細い川。細いのは空から見つめているから。なだらかな石ころと草の山。夜。夜はどこだ。どこだっけ。ここだ。ここが夜。カーテンはオーロラ、星は計器の明かり。ぼくは口をすぼめて杉下さんのほうに風を吹かせた。
カーテンで仕切られた病室にはほかにも入居者がいた。それなのに世界にはぼくのこころと杉下さんに訪れる死しかないようだった。


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