看取り(1/3)/吉岡ペペロ
なくなったのは先月からだ。
ある日リーダーに食堂に呼ばれるとテーブルに紙が一枚と紅茶が置いてあった。
「深夜のお仕事は、昼間の時給の二倍になるわ。あとは、お子さんの面倒をだれが見るのかだけれど」リーダーがガムを噛みながら勢いよく話し始めた。ぼくはひとまず紅茶をひとくち飲んだ。昼餉のまえの湿った空気と紅茶の味が似つかわしくなかった。
食堂ぜんたいに午前の光が射している。この国の太陽はしずかだ。無口だ。だけど微笑んでいる。
祖国のことを思い出すことはもうあまりなかった。だけど祖国の太陽のことはよく思い出す。祖国の太陽からは風が吹いていた。光に圧力が充満していた。だからふと風を受けるような時、ぼ
[次のページ]
戻る 編 削 Point(2)