看取り(1/3)/吉岡ペペロ
 
味しい。息子も何食わぬ顔をして食べている。
家ではテレビに息子をかまわせていた。そうでなければ着替えも洗濯もその取り入れも食事の支度もできなかった。それでもぼくと幼い息子はきっちりと生きている。きっちりと生きているという事実だけがぼくの日々の空白を埋めてくれていた。

「すき焼き食べに来なさいよ、あなたはいつも口だけ、さあいつ来てくださるの」
入居者のご婦人にまた誘われた。ぼくはかがんでこのご婦人に笑顔を返す。ご婦人はもうしかめっつらの真面目な顔になって午前の光のなかに消えてゆく。
ぼくの仕事は介護福祉士たちのサポートだ。少なくとも最初の三ヶ月まではそれだけだった。
それがそうではなく
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